飛騨高山の伝統技法 春慶塗で仕上げた、茶道具「棗(なつめ)」です。
一般的な蒔絵のなつめが、金銀の文様や華やかな意匠で場を彩るのに対し、こちらの春慶塗のなつめは一切の装飾を施しません。
しかしその派手さのなさこそが、逆に最も強い存在感を放ちます。
春慶塗は、木目を隠さず、あえて前面に出す漆技法。
同じ木目は二つと存在せず、このなつめもまた唯一無二の表情を持っています。
意匠を描く蒔絵とは異なり、自然そのものが生み出した木目を主役とする点において、極めて贅沢で、最も高級な在り方とも言えます。
蓋を開けると、内側にまで途切れることなく広がる木目。
外側だけでなく、見えない部分にまで美を宿すその姿勢は、茶の湯が重んじる「用の美」「陰の美」を体現しています。
静かな茶席において、このなつめは決して主張しません。
けれども、手に取った瞬間、棗を回した瞬間に、
本物を知る人ほど、その奥深さに気づく――そんな茶道具です。
華やかさで魅せるのではなく、
自然と技、そして時間が生み出した美で語る。
春慶塗ならではのなつめは、茶席に静かな緊張感と深みをもたらします。




